塩ビ管サックス - PVC saxophone (2017)

水道用の塩ビ管(えんびかん=塩化ビニール管、PVC pipe)で、サックス(サキソフォン)を自作しました。結構大変でした。

楽器本体だけでなく、マウスピースも塩ビ管から自作、リードは別の身近な樹脂廃品から削り出して自作、リガチャーは銅線を巻いて自作です。楽器本体からこの3点までを全て自作している人は世界的にも少ないようで(特にリード)、日本では自分だけなんじゃないかと思いますが、ペルーやインドネシアには竹でサックスを自作する人達が居るらしいので、そちらでは普通だったりするのかもしれません。

参考にするため仏セルマー社のテナーサックス用マウスピース「S90」(高いねー)中古品をヤフオクで入手し、主要部の寸法(特にフェイシングの曲面形状)を測って、塩ビ管(内径13mm管用のストレート継手、2個直列)の削り出しで再現しました。そして、買ったセルマーは使いません。笑。どうやらセルマーである必要も無かったようでした。

塩ビ管は汎用産業資材なのでホームセンターで大変安く売っており、一番細い内径13mmの信越化学製「シンエツエンビパイプ」が1mで100円前後でした。太さは色々試しましたが、最終的には内径13, 16, 20, 30, 40 [mm]を使いました。太いものほど値段が高く、内径40mmのものが1mたしか325円ぐらいでした。耐圧のVP管は厚手で重いため、非耐圧のVU管を好んで使っています。ベル部分(大径開口部分)は40×50 [mm]の異径エルボです。パイプ同士の結合には、継手による嵌め込みのほか、指穴位置の確保のため、半田ごてによる樹脂溶接を随所で使いました(接着剤でも良いのかもしれません)。リガチャーに使った銅線は2mm径ですが最低15mでしか売っておらず(ヨドバシ通販で1050円)、1回の人生では使いきれないかんじです。

キーは左手小指用の1つだけで、他は全て指穴です。この唯一のキーも必須ではないのですが、あったほうが小指による穴ふさぎがラクになり演奏性がかなり上がります。キーは独自開発のシーソー型であり、輪ゴム(笑)によってキー自体の固定と開状態の保持とを同時に行うという結構画期的な仕様になっています。チューニングは成り行き任せでCにしましたが、これにより「移調」とかいう作業が不要になり結果的にラッキーでした。最低音はFです。たぶんソプラノサックスぐらいの音域なので、「Cメロディー・カーブド・ソプラノサックス」とでも呼ぶべきかと思います(自信なし)。

Youtubeでは世界中から「塩ビ管サックス」(PVC saxophone)と称する自作品が盛んに投稿されており、ほとんどのものは、指穴をあけた塩ビの直管に市販のサックス用マウスピースを装着したものですが、これらは自作が容易であるものの、直管の内径が一定すなわち円筒管であるため、正確にはサックスでなくクラリネットといえます(全体形状がJ字型であっても同様)。これに対し、今回の自作品は内部が(異径の円筒を長手方向に、末広がりになるように継ぎ合わせた)擬似的な円錐管になってあり、オーバーブロウすると丁度1オクターブ上に飛びます。したがってクラリネットではなく、あくまでサキソフォンということです(クラリネットでは1オクターブ+完全5度上に飛びます)。このタイプになると設計と工作の難度が上がるようで、Youtube上での成功例は自分を含め4人程度に限られてきます。作り始めてから気づいたことですが、自作を試みる場合にサキソフォンがクラリネットに比べて有利な点は2つあって、それは[1]クラリネットでは1オクターブを超える音域をカバーしようとすると、上下のオクターブ間の完全5度のギャップ(いわゆるブリッジ音域)をカバーするための2~3個のキーを工作する必要があるのに対し、サキソフォンではこれが不要であること、及び[2]サキソフォンは上下のオクターブで運指が変わらず運指を覚え易いことです。

今回の自作品はレジスターキー(オクターブキー)もないため、高い音域の演奏はリードを噛んで無理やり行っています。下唇の内側が痛くなります。音域は狭く、1オクターブ半ぐらい(下のFから上のCまで)です。音量もあまり出ません。音色も鈍い印象です(ベルによる残響成分がないためか)。管の抜き差しによる調律もほぼできません。しかし制約が多いとしても見た目のインパクトが絶大であるため、ジャズの曲のメロディーが多少でも吹ければ注目度は市販のサックスの(2~3倍どころではなく)2~3桁は上と見込みました。目立てばそれでいいのか?いえいえ、利得の大きいところを狙うのがコンセプターの基本であり、幾つかの顕著なデメリットについてはそれらの全てを非本質的事項にすぎないとして捨象できるだけの度量と決断力が要求されているということです。とかなんとかポジティブに言い換えると俄然やる気が出てきますよね。笑

色々試したところ、運指の工夫(リコーダーでいうクロスフィンガリング)によって全ての半音階が出せそうなことが分かりました。なので、理屈上はどな曲でも吹けるはずです。運指はネットで見つけたマウイ・ザフーン(Maui xaphoon, ハワイの竹サックス=円筒管)の運指表を参考に試行錯誤して決めましたが、黒鍵音がほぼクロスフィンガリングという独特かつ複雑なものであり、おそらくどんなサックスとも異なっています。しかし自分は本物のサックスを吹く人になる意欲が全然ないので、特殊な運指を覚えることにデメリットは感じていません。動画は楽器完成当時(2017年2月)のもの。


つたない演奏ですが、知識ゼロからこの動画の段階まで来るのに9ヶ月ぐらいかかっています。実際、この動画のモデルの前に2本のクラリネットと2本のサックスを様々なサイズで制作しましたが、いずれも低音域などがうまく鳴らない失敗作だったため、分解して素材に戻した経緯があります。最終的にうまくいった管体の寸法(内径の分布)は、ヤマハのサイトにいう3°のテーパー角にほぼ一致していました。他にも、指穴の配置と大きさ、マウスピースのフェイシング形状とチャンバ容積、リードの素材、リードの形状(長手方向及び幅方向における厚さの分布)、指穴の縁部形状・・・と、どの領域にも未知の勘所があり、それぞれにつき改良を繰り返してノウハウを蓄積しました。特にマウスピースとリードは驚くほど繊細で、0.1mmも削ると挙動が大きく変化します(リードの厚さの管理にはノギスが必須です)。本物のサキソフォンについても両者の「削り方」に関するウェブ上の日本語の情報はほぼ無かったため、英語での情報探索が鍵になりました。まあ生半可な根性では作れません。なので、そんな積み重ねの末にようやく演奏可能なモデルができたのが大変嬉しく、また誇らしくもあります。尚この動画は2年弱で7万再生を超えており、自分的に最大のヒット作になりました。再生場所のトップ3はアメリカ・ブラジル・メキシコとのこと、中南米での需要が大きいようです(日本は9位)。


さて自分はずっとドラム担当でして、管楽器その他音階のある楽器の経験が一切なく、本物のサックスやクラリネットなど触ったこともないのですが、せっかく楽器がまあまあ仕上がってきたため、この自作サックスを使って基礎練習を始めてみました。コードやスケールをこれまた知識ゼロから独学して、スケール練習メニューらしきものを少しずつ構築し、これをほぼ毎日実行しています(メジャー、マイナー、ミクソリディアン、ドリアン、ディミニッシュ、オーギュメントまで。つらい!)。楽器の音量が小さいのも、かえって自宅練習向きと思っています。

上達は一進一退ですが、それでも楽器完成から一年余の練習を経て、最近では上野公園ライブの幕間を利用し、当バンドの百戦錬磨のメンバーの協力を仰いで、若干のワンホーン演奏(塩ビ管サックス+箱バンジョー+ベースのトリオ)に挑戦しています。まだまだ音程も運指も不安定で、真剣な鑑賞に耐える演奏ではなく、名実共に冗談音楽の体ではありますが、それでも管楽器経験者と思われる一部のお客様に衝撃を与えている模様です(そりゃそうだ)。曲は「Burgundy Street blues」「High society」「Dardanella」「Take five」「Night train」「Moanin'」「Now's the time」「Tenderly」など、まさか!と思われそうなもの、「いかつい」もの、いやに趣味の良いもの等を厳選。結果的にそこそこ大人向けの芸能になっており、そのぶん「ジャズをおもちゃにするな!」と、いろんな方面の偉い人に怒られそうです。しかし古いジャズ曲はメロディアスで特徴が強くそれ自体が魅力に富んでいるうえ、その聴き手側において、実験的な実演や奇矯な着想に対する感受性や共感力が旺盛であり、劣悪な音質も拒絶せずに音楽的意図を読み取る耐性をもち、実演上の多少の欠損についても脳内補完力を発揮して頂ける傾向が強いため、実は自作楽器での演奏に向いているように思います。これはもしや「DIYトラッドジャズ」なる新ジャンルの夜明けなのか??なお現状は丸暗記で吹くのがやっとであり、その意味でもジャズといえず「ジャズごっこ」というべき段階ですが、目標はアドリブが自在に吹けるようになることです。リーダーがこの有様とあって、見かねた望月さんがたまにアドバイスをくれます。他のメンバーも言いたいことがさぞかし沢山あるだろうと思います。笑

当初は楽器を分解した状態で、全部を一つの布袋に入れて持ち歩いていたのですが、キーが輸送中に壊れて現場で使えなくなる事故が発生。このため手持ちのベニヤ端材を切り貼りして、専用のハードケースを自作しました。内部レイアウトをあれこれ工夫し、かつ解体・組立しやすい塩ビ管の特性を最大限に利用した結果、クラリネットのケースに近いサイズまでのコンパクト化を実現。外装のビニールレザーと内装のクラッシュベロア布は、以前にユザワヤで買ったものを使いました。写真から本気度が伝わるでしょうか?なお楽器ハードケースの自作には、サイト「ウクレレ日記」さんの記事がとても参考になりました。

ジャズボイラーズ - The Jazzboilers

月 に 一 度  公 園 で ジ ャ ズ  や っ て ま す

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