箱ドラム - Box drums (1995)

木の箱と空き缶で自作した、手作りのドラム(ドラムセット)です。米国ニューオリンズの大道芸人ココモ・ジョーの楽器と演奏に触発されて制作しました。最大の特徴は、バスドラムのペダルを木の板と針金で自作した点です。

上野公園で通りかかった皆様には、木箱と空き缶の手作り感に驚きあきれて頂いていますが、ペダルまで自作品とは気づかない方が多いようで、もどかしいところです(正面からはペダルが見えないため)。制作は1995年、構想3年・制作3ヶ月と公式には言っていますが、現在もしつこく細部の改良を続けています。


スネアはオイル缶、バスドラは金物店の陳列棚

スネアドラムは、切ったエンジンオイル缶(20L入りペール缶)の上面にシズリング(びびり振動)用の多数の釘を打ち付けると共に、裏側で曲げることで抜け止めしたものです。この基本的な構造はココモジョーのモデルとおそらく同様ですが、缶の底側でなく蓋側を使うことにした結果、変形・劣化した打面の交換が可能になりました。打面がもろに鉄板ですので、音質・感触共にドラマー的にはかなり厳しいところですが笑、世間には素晴らしい音で鳴る楽器を使っている方がすでに多数おられますので、たまにはその逆を行く行動といいますか、許容度の下限を探るような試みがあっても良いはずです。実際このいんちきなスネアも1~2曲ほど叩けば徐々に慣れてきて、演奏者としての関心が演奏内容に移ってゆくため、1ステージが終わる頃には、これで別に問題ないのかな?などと錯覚に陥ります。

バスドラムの木箱は、近所の金物屋さんの閉店セールで発見し、お願いして譲って頂きました。元々は店頭の陳列棚であり、横長に置かれて、その上に鍋やヤカンが並べられていたようですが、かなり予想外な用途にリサイクルされました笑。シェル(胴)に相当する周囲構造部分には厚手(15mm厚=一般的なバスドラムの2倍近い)のラワン合板とスクリュー釘が使われており、かつ前面開口部の一長辺に沿って幕板が渡されていて、かなりの剛性があります。昭和中期の大工さんが頑丈に造ったものとみられますが、楽器としては完全にオーバースペックでしょう。これに2mm厚ほどの薄いラワン合板(壁材?)の背板が張られており、この背板を打面としてペダルで叩いていますが、ペダルビーターが当たる部分に内外から古タオルを貼って共振周波数を下げた結果、結構しっかりした低音が出ています。ポピュラー音楽でのバスドラムはサステイン(余韻)がさほど要求されないため、打面が円形でないことや、打面が木であることでさえ、本質的な障害にならないようです。

他方、箱型縦長の形状は演台のようで一見苦笑を誘いますが、音響的にみますと、一般的な円筒形のバスドラムに対して占有床面積あたりの内容積をほぼ倍増できる上、前面の底辺の接地幅が広いことによるバッフル効果(音の回り込み抑制効果)も期待できるため、小型バスドラムの設計において通常の円筒形よりも有利ですらあると思われます。これはアコースティックドラムの未来の姿かもしれません(見た目の地味さを度外視すればですが笑)。実際計算してみたところ、占有床面積が16インチ径の極小バスドラムと同程度にすぎないのに対し、内容積は23.9インチ径バスドラム相当と、平均的なロック用ドラムセットのバスドラム(22インチ径)よりも1サイズほど大容積であることが判りました。この衝撃の数字はドラマーならば耳を疑うレベルではないでしょうか。

上面の位置が高いので、シェル(胴)を叩く奏法にも適しています。あと上面が平らなので、スティックとか飲み物とか色々置けて便利です。前面に垂らした板には「jazz」の文字をくり抜いて、いったい何の音楽をやっているかがお客様にわかるようにしております。笑

バスドラムの周囲には、業務用のたけのこの缶とか、粉わさびの缶とか、中華太鼓とかを吊っています。特に粉わさび缶は薄肉なため繊細な音が出る希少品です。缶は叩いているとだんだんへこんできて響きが悪くなるので、たまに新しいのと交換しています。

缶は基本的に自宅の近所の飲食店を回って分けて頂きますが、幾つかはお客様にご提供いただきました。ありがとうございます。缶は消耗品なので、新しい空き缶を常時募集中です。スネアの打面にしている「ペール缶の蓋」も消耗品ですが、近所のガソリンスタンドが最近分けてくれなくなったため困っています(偽物対策らしい)。真っ赤な中華太鼓は神戸の南京町で購入、たしか二千円台でした。


「吊り下げ式」ペダルは最古の絶滅種、自作品での活動は世界唯一か

自作したバスドラムのペダルは、ココモジョーにならった「吊り下げ式」(overhanging bass drum pedalあるいはswing pedal)です。この工作がジャズボイラーズの原点といえるでしょう。ココモジョーの解説頁(の文末の注1)で詳述したとおり、この「吊り下げ式」は19世紀末に考案されたバスドラムペダルの最古の形式らしいことが後に判りました。現在の主流であるラディック式ペダル(床置き式=1909年に考案)によって市場から早々に駆逐されてしまったため、市販品は博物館クラスの希少性のようです(Leedy製品の実演動画こちら)。木箱でバスドラムを作る例や、ラディック式のペダルを木で自作する例は海外のYoutube動画等で散見されますが、「吊り下げ式」のペダルは知名度がきわめて低いためか、その自作品となるとウェブ上でも全く見当たらず、ココモジョーが亡くなった今となっては、自作の吊り下げ式ペダルを使って継続的に演奏活動をしているグループは世界でも我々ジャズボイラーズが唯一ではないかと思います。

このペダルの制作には苦労しました。ペダルというものは、踏み終わってから足を離すことで元の位置に復帰していることが必要ですが、この復帰力すなわち弾性をどう付与するかが問題です。ココモジョーの箱ドラムでは硬いコイルバネみたいなものをビーター板に固定して、その屈曲方向の弾性を利用しているようでしたが(*注1)、手ごろな代用品が見当たりません。

まず最初に、クリーニング屋でくれる針金ハンガーを使ってみたのですが、素材の弾性変形領域が狭いようで、1曲も叩くと曲がってしまい(塑性変形)、とても使い物になりません。

次に、家の裏から切ってきた竹を使ってみたところ(図)、反発が非常にシャープになり、見た目も楽しくて我ながら名案と思ったものですが、それも3ヶ月ほどで破断してしまい、開発は暗礁に乗り上げました。

そこで考えた末、ビーター板を支持する弾性体に必要な機能が「荷重の支持」「旋回運動の許容」「弾性の付与」の3つに分解できることに気づき、これらを別々の部材に分担させることにしました。

つまり、ビーター板の上端を「蝶番(ちょうつがい)」でバスドラム側と結合して荷重の支持と旋回運動の許容を行わせる一方で、このビーター板を真上から「引きバネ」で吊り下げて弾性を付与するわけです(図)。

「機能を分解してみる」という着想は、今から思えば旧ソ連で発展したという発明手法「TRIZ」(トゥリーズ)の定石の一つ。果たして、この形式のペダル機構はいざ作ってみると、動作が軽快で耐久性も従来より格段に高く、これでこの種の吊り下げ式ペダル機構の基本構造としては完成の域に達したと思われます(*注2)(*注3)。

引きバネに代えてゴムバンドを使っても良さそうです。ただし、その場合には耐久性の限界が顕著になることが予想されますので、複数本を並列に設けるなどシステムの冗長化(笑)が必要でしょう。

なお、ペダル板のかかと側とバスドラムとの間は着脱自在にしており、この部分の外れ易さにも長年苦労していたのですが、2004年ついにここの「着脱しやすいが、演奏中に外れにくい」新規な構造を考案、詳細を知りたい方は是非現場まで見に来て下さい。これも勿論、集客に役立てようとの魂胆です。笑

シンバルスタンドは「ちゃぶ台の脚」で折畳み式に

バスドラムにはシンバルスタンドとなる「ちゃぶ台用の脚」を設置しており、移動の際にはもちろん折りたためます。上述の金物店の閉店セールで格安で入手したものですが、見た目にも楽しいと好評です。

シンバルを差し込むための棒には、物干し用ハンガーのフックを流用。先端の「玉」と、フック部の妙に優美な曲線とが中々いいかんじです。ただし演奏中にシンバルが時々落ちるのが難点です。笑

これに乗せているシンバルは、中古の割れシンバル(500円)の外周を金切りバサミで切り落としたものですが、結構普通に使えています。

現場での組み立てには、釘と針金と、洋灯吊り金具と、かばん金具(パッチン錠)を使っています。これらの組み合わせにより、空き缶の自重を利用して、全ての鳴り物の姿勢をギリギリで保持するように、数々の独自の抜け止め構造を盛り込みました。そういえば、この箱ドラムでは市販のドラム用のハードウェア(スタンド、ホルダー金具、蝶ボルト、ドラム椅子等)は一切使用しておらず、これは単なるケチでもありますが、軽量化とコンパクト化にも大きく寄与しています。この箱ドラムを作って以来、楽器屋さんに行く機会がほとんど無くなってしまいました。楽器メーカーさんからすれば、ちょっと勘弁してくれよ・・・という物件かもしれません。


ちなみにこの箱ドラムは、一式全てをバスドラムの中に収納できるようにできており、これをバイク(スーパーカブ90cc)の荷台にくくりつけて運んでいます。この種の工作に興味のある方には、この箱ドラムを現場で組み立てる場面や、演奏後に収納して積み込む場面も結構見どころではないかと思っています。なお総重量が30kg以上あるため、これを電車で運ぶのは(3回ほどやりましたが)正直かなりつらいです。


---

*注1(2018.08記):米ニューオリンズのドラマーEdward "Dee Dee" Chandlerが発明し、最も初期のバスドラムペダルの一つとされる「吊り下げ式」ペダル(1894年頃)が、これと同様の屈曲式のコイルバネを弾性体として用いていることを示す記事(こちら=英文)がありました。ココモジョーがこれを採用していることから、ニューオリンズではこの形式が主流であったこと、及びココモジョーが初期のドラムペダルの構造をきわめて忠実に継承していたことが窺われます。

*注2(2018.08記):上記Chandlerの「吊り下げ式」ペダル(1894年頃)よりも更に古く、バスドラムペダルに係るおそらく最古の特許出願(1886年)とされる米セントルイスの楽団指揮者George R. Olneyの名義の特許においても、弾性体として引きバネが使用されていたことが判明(出願書類Fig. 3及びFig. 4のcoiled spring O=図)。配置は若干異なりますが原理は私共による改良版と共通しており、結局私共による改良は、Chandler式からOlney式への移行(ないしは先祖がえり)ということになります。

*注3(2018.09記): その後2017年に、奏法の変化でバスドラムのダブルストローク(2つ打ち)を使い始めたところ、吊り下げ式ペダルの欠点である動作の鈍さが顕著になってきました。このため、ペダル板の寸法の変更(ヒールダウン操作を容易にするための長尺化=ロングボード化)と、ビーター板の構造の改良(遅角スペーサの導入)を行った結果、これがそこそこ成功。現在主流のラディック式(床置き式)のペダルと比較しても、結構遜色ない操作性を実現しつつあります。ここにいう「遅角スペーサ」とは私共独自の命名であり、これがどういうものか知りたい方は現場まで来て頂ければ、更にじっくり説明させて頂きます。笑。100年以上前に絶滅した吊り下げ式ペダルですが、こうした改良や最適化の余地がまだいくらか残っているのではないかと考えています。



足シンバル機構

sock cymbal

・ハイハットの代わりになる足シンバル機構(ソック・シンバルらしきもの)も作ってみました。これは、蝶番で開閉可能に連結されたペダル板と台板に各1枚のシンバルというか空き缶蓋を互いに対向した状態に設置し、ペダル板を上からコイルバネで吊り下げたものです。

・ペダル板を踏むことでチャッというクローズ音が出るわけです。パカパカ動く様子は、見た目にも結構楽しいです。

・現在あるハイハットの先祖である「sock cymbal」は、1920年頃にセントルイスでBaby Doddsの協力によりLudwigが開発したとの記録がありますが(Baby Dodds自伝第27頁)、本当のところはよくわかりません。そして当時のソックシンバルはおそらくこういう代物だったのではないかと思われますが、ぜんぜん別物かもしれません。(←2010.12 Sock cymbalらしき画像がこちらのオランダのサイト「Winnie's drumkit」に幾つか掲載されているのを発見!様々な形式が試みられていて興味深いです。私共の構造はsnow shoeという最も原始的な形式に近い模様。)

・そういえば昔新宿の「呑者家 銅鑼」開店当時の入口階段の壁に飾られていた物体は、ソックシンバルに似ていたような気もして、そうとすればあれは日本に幾つも存在しない貴重なアンティークだったのかもしれません。

・上側のシンバルを吊っているコイルバネは我が家で使用済みの「アルミホイル製換気扇フィルタ」についていたものを使用。最近はこういう消耗品にもけっこう面白い金具が使われていて、油断できません。

・コイルバネを吊るための支柱には、当初は缶の切れ端を曲げて使っていたのですが、剛性がなくて演奏中すぐ倒れてしまいます。「台板から垂直に金属棒が突き出ている構造」というのは案外作りにくく、ハンズとかホームセンターを歩き回っても、これに適した既存の金具はなかなか見つかりませんでした。

・ところが2003年ついに、「卓上用日めくりカレンダーの金具」が流用できることを発見、ついに現在の形が完成しました(写真)。

この金具は、もう5年も前に当時の職場で自分が使っていたカレンダーから外して保管していたもので、こういう「なんか使い道がありそうだと思って、捨てずにストックしておいた金具」が役に立つのは、ほんとに嬉しいものです。

ちなみにコバヤシ自宅にはそんな使途不明金具のストックがバケツ一杯分あり、嫁がちょっとイヤそうにしています・・・。

・2009記: 上述の「日めくりカレンダー金具」ですが、その後6年ばかり使い倒して、さすがに2本とも固定部分のネジ山がバカになりました。ペダル板は1小節に2回踏みますので、32小節の曲で1曲あたり896回ぐらい、これを1日12曲ぐらいやると1万回を超え、この繰り返し負荷自体が基本的に過酷と思われますが、たまに誤って柱ごと踏みつけてしまう際の負荷も致命的に効いているようです。一度は完成と思われた支柱ですが、ネジ山の磨耗は本質的な欠点であり、改善が必要です。こんな駄工作であっても、まったくエンジニアリングは終わりのない旅です。

・代替の支柱の素材には熟慮の末、折り畳み傘の骨をチョイス。鉄板のプレス品の部分ではなく、骨の先端付近に使われている黒メッキされた中実の針金(ピアノ線などのバネ鋼みたいです)が非常に強靭で硬い上に弾性変形領域が広く、これは個人的に注目の新素材ですね。とくに90年代の折り畳み傘は実にいい材料使ってます。壊れた傘から剥ぎ取って保存しておいたものですが、捨てないでおいてよかった・・・。笑

・これで根元の止め輪部分を作って水平に曲げ、そこに直径6mmというかなり太いボルトを通して、底板にナットで固定しました(写真参照)。上述の「日めくりカレンダー金具」(直径約1.5mm)に比べてネジ部分が格段に太いので磨耗に強く、且つ柱の部分がしなやかであるため誤って柱ごと踏みつけても固定部分に過剰な負荷が掛かりません。まさに「柔よく剛を制す」、これで「自作向けソック・シンバルのバネ掛け支柱」の構造としては今度こそ完成形かと思われます。新素材(笑)の発見に加え、柱の部分(傘の骨)と固定部分(ボルト)とを別部品化したのが勝因といえましょう。我ながら大変エレガントな解決であり、満足度大です。

・「台板から垂直に金属棒が突き出ている構造」の最適解はここまで単純だったわけですが、この形式にたどり着くまでに10年ぐらいかかってますね・・・。その間に踏み板のほうは破損と補修を繰り返して、木片のクラスターと化しており、この凄い質感といい、刻み込まれた無意識の運動の繰返しといい、廃材であった各部品がもつヒストリー性といい、これってもしかして現代美術??・・・そういえば当バンドの箱ドラムその他の自作楽器群も、これをそれぞれ美術作品と捉えて頂いて一向に差し支えないと実は思っているのですが、なぜか「美術手帳」「みづゑ」といった媒体から取材を受けたことは一度もなく(「ドラムマガジン」からの取材もありませんが)、なんにせよ芸術を解さない人にとってはただのゴミなのかもしれません。バネは疲労で切れてしまったので2本直列につなぎました。

ジャズボイラーズ - The Jazzboilers

月 に 一 度  公 園 で ジ ャ ズ  や っ て ま す

0コメント

  • 1000 / 1000