ニューヨーク近代美術館永久展示作品(大ウソ)、箱ドラムの解説。

箱ドラムとココモ・ジョーさん

・左の写真は箱ドラムの大御所?、米ニューオリンズの大道芸人ココモジョー(Joseph "Cocomo Joe" Barthelemy; 1913-1990)。初期R&Bの大スター、ファッツ・ドミノのバンドに居たこともあるらしいのですが、晩年(1970-80年代)には自作の箱ドラムを使ったワンマンバンドで、街の名物おじさん的存在になりました。

・カズーでメロディーをとったり、いい加減な歌詞で歌ったり、スティックを投げたりしながら、たった一人で(!)各種ジャズナンバーを演奏します。このゆるーい芸能スタイルと、ドラムは空き缶でいいや、メロディーはカズーでいいや、なにこれ一人でできるじゃん、という潔い割り切りが衝撃的です。

・じつは私共も生で見たことはありませんで、Emile Martynさんと渡辺真理さん制作のプライベートビデオ?を見ただけなんですが、全てはここから始まりました。こんなに遊ばせてくれて、ほんと感謝してるんですよ真理さん!

・このビデオからの映像は、American Musicから2009年に発売された「New Orleans Jazzmen」というDVDにも5分ほど収録されている模様ですが、見ていないので詳細はわかりません。全盛期と思われる1970-80年代を捉えた他の動画はYoutube等にも全く見当たらず、現在このDVDが、我々のアクセス可能な唯一の映像資料と思われます。

・ココモジョーの箱ドラムについて、詳しく記述したウェブサイトも存在しないようです。7年間現地で一緒に活動されたドイツのトランペット奏者Nobert Susemihlさんのサイトに、若干の記事と写真がありました(英文=こちら)。より詳しい評伝は、1990年のココモジョーの葬式の様子を伝えるNew York Timesの記事です(英文=こちら)。天涯孤独でガンにかかって晩年は文無しだったという話や、ヨーロッパの大道芸フェスティバルに呼ばれて優勝したとかいう話もあり、辞書を引きながらがんばって読むとちょっと泣けます。いずれ和訳したいと思います。

・ココモジョーのバスドラムのペダルは、木の板と紐で自作されているという意外性と、工作の粗野さが痛快で目をひきます。しかし、真に注目すべきはその構造であり、ビーターとなる板(以下ビーター板という)がバスドラムの上端から吊り下げられている点が、大変顕著な特徴といえます。このビーター板の下端と、木製のペダル板の前端とが、革ひも?で繋がれて、一種の3点リンク機構を構成しています。ペダル板を踏むことで、ビーター板が革ひもに引かれバスドラムに向かって旋回し、ビーター板の下端のげんこつ状のビーターによって、バスドラムがドンと叩かれるような構造です(*注1)(*注2)。現代のバスドラムペダルとは異なり、ビーターを旋回可能に支持する軸、支柱、軸受けといった機械部品を必要としないことから、自作向けの構造といえます。

・ココモジョーのドラムセットは、今ではニューオリンズのジャズ博物館(The Louisiana State Museum Jazz Collection)に展示されているそうです。宮崎けいさんが2001年に現地で撮影された実物の写真を、最近発掘してお送り頂いたので掲載します(左)。ありがとうございます。なんだかスネア(一斗缶)の位置が間違っていて、ペダルもつけ方がわからないのか脇に置いてあり、あー直したい!!笑

・ココモジョーが箱ドラムの元祖なのかどうかは、よくわかりません。ガラクタでドラムを自作したいという欲求は人類共通と思いますので、案外そのまた先生のような人が居たのかもしれません。

・2014.05記:なんと、少年時代のココモジョーらしき人物が箱ドラムを演奏している動画フィルムが発見されたとの情報です。→記事(英文)映像同内容のYoutube動画

撮影は1928年(昭和3年!)のニューオリンズ市内の野外、2人の少年が踊り、もう1人が空き缶と木箱でできた自作のドラムを演奏しています。この時代で音声入りというだけでも貴重ですが、音質・画質ともこの年代としては非常に鮮明であり、驚くべき記録になっています。

演奏は4ビートのジャズではなくアフリカンドラム的な内容であり、この年代まで生々しく残るアフリカの影響と、少年ながらに高い演奏技術が二重に衝撃的です。スティックまで自作ですね。

これを発見したルイジアナ州博物館の収集ディレクターGreg Lambousyさんは、「決定的証拠はないが、撮影年代と、箱ドラムの類似性から、おそらくココモ・ジョー本人ではないかと思われる。情報求む(若い頃のココモジョーの他の写真など)」とのこと。

スネアにシズリング(びびり振動)用の釘がない点や、小さい缶が横に寝かせる方向に取り付けられている点など、箱ドラムの細部構造は晩年のものと異なります。しかし、フットペダルの基本構造や寸法比が晩年のものと全く同じであり、また、全てのストロークを強いアクセントでべったり打ち、装飾音として小さい缶を8分音符で連打する演奏スタイルと、左ひじが体の内側に入り込む癖の強い演奏フォームが、晩年のココモジョーにそっくりだと思います。したがってココモジョー研究家?の自分としては、ココモジョー本人説に1票です!

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*注1(2018.08記):この構造は斬新に見えますが、じつは1890年頃に普及していた最も初期のバスドラムペダルの形式であることが判明。「吊り下げ式」(overhanging bass drum pedal)あるいは「振り子式」(swing pedal)として十年ほど主流だったようですが、速い連打が難しいことから、程なく1909年にラディック(William F. Ludwig)により考案された床置き式のペダルに駆逐されました(Rob Cook "The Ludwig Book" 2003年)。なお床置き式のペダルはその後、優れた操作性から市場を席巻し、名門ラディック社の起源になると共に、現在も全てのドラムペダルの基本構造となっています。

*注2(2018.08記):「吊り下げ式」ペダルの考案者については、米ニューオリンズのドラマーEdward "Dee Dee" Chandler(1894年頃)とする記事が散見されますが(こちら=英文)、それよりも早い特許出願も指摘されており(こちら=英文、出願1886年、米セントルイスの楽団指揮者George R. Olney。右図は特許図面)、両者の関連性は不明です。



ジャズボイラーズの箱ドラム

当バンドの箱ドラムは、ココモ・ジョーの楽器と演奏に触発されて制作したものであり(1995年)、木箱のバスドラムと、オイル缶のスネアドラムとを中心として構成されています。

スネアドラムは、切ったオイル缶(ペール缶)の上面にシズリング(びびり振動)用の多数の釘を打ち付けると共に、裏側で曲げることで抜け止めしたもので、これはココモジョーのモデルと基本的に同様です(たぶん)。

バスドラムの木箱は、近所の金物屋さんの閉店セールで店頭の陳列棚として使われていたもの(横倒しにして、上に鍋やヤカンが載っていた)を、お願いして譲って頂きました。前面に垂らした板には「jazz」の文字をくり抜いて、いったい何の音楽をやっているかがお客様にわかるようにしております。笑。

バスドラムの周囲には、業務用のたけのこの缶とか、粉わさびの缶とか、中華太鼓とかを針金で吊っています。特に粉わさび缶は薄肉なため繊細な音が出る希少品です。缶は叩いているとだんだんへこんできて響きが悪くなるので、たまに新しいのと交換しています。

缶は基本的に自宅の近所の飲食店を回って分けて頂きますが、幾つかはお客様にご提供いただきました。ありがとうございます。缶は消耗品なので、新しい空き缶を常時募集中です。スネアの打面にしている「ペール缶の蓋」も消耗品ですが、近所のガソリンスタンドが最近分けてくれなくなったため困っています(偽物対策らしい)。真っ赤な中華太鼓は神戸の南京町で購入、たしか二千円台でした。

改良前のペダル機構。
竹を使ったのだが耐久性に乏しいバスドラムのペダルは、ココモジョーにならって「吊り下げ式」を自作しました。この工作がジャズボイラーズの原点です。木箱でバスドラムを作る例や、床置き式(ラディック式)のペダルを木で自作する例は海外のYoutube動画等で散見されますが、「吊り下げ式」のペダルの自作品はウェブ上でも全く見かけないので、現在我々のものが世界で唯一の稼動品ではないかと思います。

このペダルの自作には苦労しました。ペダルというものは、踏み終わってから足を離すことで元の位置に復帰していることが必要ですが、この復帰力すなわち弾性をどう付与するかが問題です。ココモジョーの箱ドラムでは硬いコイルバネみたいなものをビーター板に固定して、その屈曲方向の弾性を利用しているようでしたが(*注3)、手ごろな代用品が見当たりません。

あんまりお金かけたくないしなあ、と、最初は弾性体にクリーニング屋でくれる針金ハンガーを使ってみたのですが、素材の弾性変形領域が狭いようで、1曲も叩くと曲がってしまい(塑性変形)、とても使い物になりません。

次に、家の裏から切ってきたを使ってみたところ(左上の図)、反発が非常にシャープになり、見た目も楽しくて我ながら名案と思ったものですが、それも3ヶ月ほどで破断してしまい、開発は暗礁に乗り上げました。

世界初公開、コバヤシ式ペダル機構!
この説明をみて自分で箱ドラムを作ったと
いう人は、まあメール下さい。そこで考えた末、ビーター板を支持する弾性体に必要な機能が「荷重の支持」「旋回運動の許容」「弾性の付与」の3つに分解できることに気づき、これらを別々の部材に分担させることにしました。

つまり、ビーター板の上端を「蝶番(ちょうつがい)」でバスドラム側と結合して荷重の支持と旋回運動の許容を行わせる一方で、このビーター板を真上から「引きバネ」で吊り下げて弾性を付与するわけです(右の図)。

「機能を分解してみる」という着想は、今から思えば旧ソ連で発展したという発明手法「TRIZ」(トゥリーズ)の定石の一つ。果たして、この形式のペダル機構はいざ作ってみると、動作が軽快で耐久性も従来より格段に高く、これでこの種の吊り下げ式ペダル機構の基本構造としては完成の域に達したと思われます(*注4)(*注5)。

引きバネに代えてゴムバンドを使っても良さそうです。ただし、その場合には耐久性に注意が必要でしょう。

なお、ペダル板のかかと側とバスドラムとの間は着脱自在にしており、この部分の外れ易さにも長年苦労していたのですが、2004年ついにここの「着脱しやすいが、演奏中に外れにくい」新規な構造を考案、詳細を知りたい方は是非現場まで見に来て下さい。これも勿論、集客に役立てようとの魂胆です。笑。

バスドラムにはシンバルスタンドとなるちゃぶ台用の脚を設置しており、移動の際にはもちろん折りたためます。

シンバルを差し込むための棒には、物干し用ハンガーのフックを流用。先端の「玉」と、フック部の妙に優美な曲線とが中々いいかんじです。ただし演奏中にシンバルが時々落ちるのが難点です。

組み立てには、釘と針金と、かばん金具(パッチン錠)を使っています。これらの組み合わせにより、空き缶の自重や針金の弾性を利用して、全ての鳴り物の姿勢をギリギリで保持するように、数々の独自技術を盛り込みました。既存のドラム用のハードウェア(スタンド、ホルダー金具、蝶ボルト等)は一切使用しておらず、これは単なるケチでもありますが、軽量化とコンパクト化に寄与しています。

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*注3(2018.08記):上記"Dee Dee" Chandlerの「吊り下げ式」ペダルが、これと同様の屈曲式のコイルバネを弾性体として用いていることを示す記事(こちら=英文)がありました。ココモジョーがこれを採用していることから、ニューオリンズではこの形式が主流であったこと、及びココモジョーが初期のドラムペダルの構造をきわめて忠実に継承していたことが窺われます。

*注4(2018.08記):上記Olneyの特許でも、弾性体として引きバネが使用されていたことが判明(出願書類Fig. 3及びFig. 4のcoiled spring O=右図)。配置は若干異なりますが原理は私共による改良版と共通しており、結局私共による改良は、Chandler式からOlney式への移行(ないしは先祖がえり)ということになります。

*注5(2018.09記): その後2017年に、奏法の変化でバスドラムのダブルストローク(2つ打ち)を使い始めたところ、吊り下げ式ペダルの欠点である動作の鈍さが顕著になってきました。このため、ペダル板の寸法の変更(ヒールダウン操作を容易にするための長尺化=ロングボード化)と、ビーター板の構造の改良(遅角スペーサの導入)を行った結果、これがそこそこ成功。現在主流のラディック式(床置き式)のペダルと比較しても、結構遜色ない操作性を実現しつつあります。ここにいう「遅角スペーサ」とは私共独自の命名であり、これがどういうものか知りたい方は現場まで来て頂ければ、更にじっくり説明させて頂きます。笑



足シンバル機構

sock cymbal
・ハイハットの代わりになる足シンバル機構(ソック・シンバルらしきもの)も作ってみました。これは、蝶番で開閉可能に連結されたペダル板と台板に各1枚のシンバルというか空き缶蓋を互いに対向した状態に設置し、ペダル板を上からコイルバネで吊り下げたものです。

・ペダル板を踏むことでチャッというクローズ音が出るわけです。パカパカ動く様子は、見た目にも結構楽しいです。

・現在あるハイハットの先祖である「sock cymbal」は、1920年頃にセントルイスでBaby Doddsの協力によりLudwigが開発したとの記録がありますが(Baby Dodds自伝第27頁)、本当のところはよくわかりません。そして当時のソックシンバルはおそらくこういう代物だったのではないかと思われますが、ぜんぜん別物かもしれません。(←2010.12 Sock cymbalらしき画像がこちらのオランダのサイト「Winnie's drumkit」に幾つか掲載されているのを発見!様々な形式が試みられていて興味深いです。私共の構造はsnow shoeという最も原始的な形式に近い模様。)

・そういえば昔新宿の「呑者家 銅鑼」開店当時の入口階段の壁に飾られていた物体は、ソックシンバルに似ていたような気もして、そうとすればあれは日本に幾つも存在しない貴重なアンティークだったのかもしれません。

・上側のシンバルを吊っているコイルバネは我が家で使用済みの「アルミホイル製換気扇フィルタ」についていたものを使用。最近はこういう消耗品にもけっこう面白い金具が使われていて、油断できません

・コイルバネを吊るための支柱には、当初は缶の切れ端を曲げて使っていたのですが、剛性がなくて演奏中すぐ倒れてしまいます。「台板から垂直に金属棒が突き出ている構造」というのは案外作りにくく、ハンズとかホームセンターを歩き回っても、これに適した既存の金具はなかなか見つかりませんでした。

・ところが2003年ついに、「卓上用日めくりカレンダーの金具」が流用できることを発見、ついに現在の形が完成しました(右の写真)。

この金具は、もう5年も前に当時の職場で自分が使っていたカレンダーから外して保管していたもので、こういう「なんか使い道がありそうだと思って、捨てずにストックしておいた金具」が役に立つのは、ほんとに嬉しいものです。

ちなみにコバヤシ自宅にはそんな使途不明金具のストックがバケツ一杯分あり、嫁がちょっとイヤそうにしています・・・。

・2009. 上述の「日めくりカレンダー金具」ですが、その後6年ばかり使い倒して、さすがに2本とも固定部分のネジ山がバカになりました。ペダル板は1小節に2回踏みますので、32小節の曲で1曲あたり896回ぐらい、これを1日12曲ぐらいやると1万回を超え、この繰り返し負荷自体が基本的に過酷と思われますが、たまに誤って柱ごと踏みつけてしまう際の負荷も致命的に効いているようです。一度は完成と思われた支柱ですが、ネジ山の磨耗は本質的な欠点であり、改善が必要です。こんな駄工作であっても、まったくエンジニアリングは終わりのない旅です。

・代替の支柱の素材には熟慮の末、折り畳み傘の骨をチョイス。鉄板のプレス品の部分ではなく、骨の先端付近に使われている黒メッキされた中実の針金(ピアノ線などのバネ鋼みたいです)が非常に強靭で硬い上に弾性変形領域が広く、これは個人的に注目の新素材ですね。とくに90年代の折り畳み傘は実にいい材料使ってます。壊れた傘から剥ぎ取って保存しておいたものですが、捨てないでおいてよかった・・・。笑

・これで根元の止め輪部分を作って水平に曲げ、そこに直径6mmというかなり太いボルトを通して、底板にナットで固定しました(写真参照)。上述の「日めくりカレンダー金具」(直径約1.5mm)に比べてネジ部分が格段に太いので磨耗に強く、且つ柱の部分がしなやかであるため誤って柱ごと踏みつけても固定部分に過剰な負荷が掛かりません。まさに「柔よく剛を制す」、これで「自作向けソック・シンバルのバネ掛け支柱」の構造としては今度こそ完成形かと思われます。新素材(笑)の発見に加え、柱の部分(傘の骨)と固定部分(ボルト)とを別部品化したのが勝因といえましょう。我ながら大変エレガントな解決であり、満足度大です。

・「台板から垂直に金属棒が突き出ている構造」の最適解はここまで単純だったわけですが、この形式にたどり着くまでに10年ぐらいかかってますね・・・。その間に踏み板のほうは破損と補修を繰り返して、木片のクラスターと化しており、この凄い質感といい、刻み込まれた無意識の運動の繰返しといい、廃材であった各部品がもつヒストリー性といい、これってもしかして現代美術??・・・そういえば当バンドの箱ドラムその他の自作楽器群も、これをそれぞれ美術作品と捉えて頂いて一向に差し支えないと実は思っているのですが、なぜか「美術手帳」「みづゑ」といった媒体から取材を受けたことは一度もなく(「ドラムマガジン」からの取材もありませんが)、なんにせよ芸術を解さない人にとってはただのゴミなのかもしれません。バネは疲労で切れてしまったので2本直列につなぎました。

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